【博士就活】専門性が違うという企業研究者の悩み

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私は博士(理学)の学位を取得してから企業に就職し、企業研究者として働いています。この記事では、学生時代に学んだ専門性が企業の研究者になっても生かせるのかについて考察します。

学生時代の専門性と就職後の研究内容のギャップ

企業研究者になっても学生時代に研究していたテーマをギャップなくそのまま続けることができる人は稀ではないでしょうか。私の場合は、材料研究という分野からは出なかったとはいえ、入社後に全く関わりのなかった領域のテーマを担当しました。

この状況は正直辛く、大きなギャップを感じました。博士過程で学位を取って、そのテーマでは指導教官とともに世界最先端を走っていた自負があり、この知見を生かして世の中変えてやるぞと言わんばかりの鼻息の荒さで入社しました。しかし門外漢のテーマの担当となったことで途端に振り出しに戻らされた印象です。企業研究者の身として、ある程度は専門から離れることは覚悟していましたが、全くの初心者状態で勉強し直しというのは辛いものです。

完全に専門が異なるテーマを担当させられるこの事例は極端かもしれませんが、企業研究者がずっと同じテーマを続けられるわけではないのは事実です。入社時のギャップ、テーマの統廃合時のギャップ、人員配置のための異動のギャップなど、自分の制御範囲外の力で研究対象が変わってしまうことは十分起こりえます。企業では会社の方針や社会情勢によっても研究テーマが変化するためです。とりわけ、大学での研究テーマからギャップなく企業の研究に移行できるとしたら、ものすごく需要の高い分野の研究をしていたか、もともと入社企業と共同研究をしていた場合でしょう。むしろ新規性や独自性を求めらるはずの大学の研究が企業の研究と被らないのは自然だと思います。

専門外のテーマに対するアプローチ

ではこれまでの専門性が生かせない状況に陥った筆者がどんなことに意識して企業研究者として自立したかです。

これまでの専門性が活用できる課題はないかを常に探す

専門分野は違えど材料なら材料です。試料作製方法のいずれかの部分でこれまで経験した手法に近いものが使われていないか目を凝らしながら従事しました。よくよく見ると意外にも近い手法は使われているものということに気が付きます。むしろ私の知っている方法のほうが性能向上が見込めたり効率が良かったり、そのような点は常々提案し続けました。研究におけるブレークスルーは異分野が接する点で発生するとよく聞かれますね。一見して畑違いの手法・技術でも、組み合わせ次第でブレークスルーにつながるかもしれない、そんな考えで課題に取り組むと良いと気づきました。新しい手法を持ってきて、その分野の背景知識が豊富となると、チーム内でも一目置かれる存在になれます。社内だけでは発想や技術が凝り固まっている状態が多々あるからです。

新しい分野でもキャッチアップ方法を知っている

この点は自分でも意外だったのですが、専門性が全く異なるテーマでもキャッチアップはできます。博士の学位を取るまでの課程で研究の進め方を叩き込まれているはずです。専門書の読み方、論文の読み方、最新の文献の集め方、人へ聞くことの大事さ、など情報収集能力はさることながら、問題や課題を自身で作り出して解決する。結果をまとめて人に理解してもらう。論文化・特許化などのアウトプットまで、一通り再現できちゃいます。最初こそ専門性が違い過ぎるなどと失望しましたが、一周やってしまえば新たな専門性の獲得です。実用化につながる成果だけではなく、学術的に新規性のある発見などもその区別や判断もある程度できるので、自然科学との対話という意味でもモチベーションが維持できます(隙を見て論文化)。博士課程で学んだのは研究テーマに対する専門性はもちろんですが、研究を一人でも推し進められる力が非常に生きてくることを痛感しました。

コア技術の獲得とコア人材になるための戦略

気を付けないといけないのは担当テーマの連続性です。企業研究のテーマはちょくちょく変わってしまうのは致し方ない点がありますが、さすがに毎年担当テーマが変わってしまうと新たな専門性を獲得するには困難かもしれません。それを防ぐために意識したのは、所属する研究部署のコア技術を握ることです。いわゆる研究の独自性の部分に当たります。独自性の高いコア技術で得られた結果、成果、知見はそれだけでも先端領域です。そのような技術を早い段階で見極めて担当に食い込む。さらに自分のこれまでの知見を加えて付加価値を与えたり、それができなくても研究を進歩させることができれば、あなたを配置転換する理由は薄れていきます。加えて数年担当できれば、もう一度学位を取れる専門性の出来上がりです。ここまでくればそのテーマを続けても良いし、新たに別のテーマを始めても良いし、あなたはそれなりの選択権を掌握できると思います。

博士号を取得する目的の一つは自由を得るためだと思います。少なくとも私はそうです。所属する企業や研究機関・国に縛られたくない、研究テーマを自由に選びたいなど、博士号の最大のメリットは自由度にあると思います。研究テーマを自由に選択できる権利を確保しておくためにも、上記のような戦略も必要だと考えます。

担当テーマを希望するための戦略

研究部署内のコア技術が何なのかに早々に気づけたとしても、その担当に食い込めるかという点にも戦略が必要だと思います。まずは与えられた課題に対してフルスロットルで成果を出すことです。博士号を取った直後の新米博士は、研究者として初心者マークを付けた程度の段階です。正直、発言力が高いとは言えない状況だと思います。したがって、まずは与えられた課題でしっかり成果を出し、チームや会社に貢献できる人材であることを証明します。その際は社内報告書でも良いのでなるべく数値で語れる成果を増やしておくのが良いのでないでしょうか。急に上司(評価者)が変わることも起こり得るからです。社外発表ができるなら最初から狙うのもありです。そして大きな課題を任せられる信頼を得られれば、率先してコア技術に食い込むよう発信を続けましょう。

最初に与えられた課題が小粒だとしても全力で成果を出すというステップが極めて重要にも関わらず、思ってた仕事じゃない、専門分野が違う、などと引っ込んでしまうとその後に見える世界に雲泥の差が生まれると私はそう思います。人はファーストインパクトが最重要。後から印象を変えることは中々難しいです。最初に得られた信頼は噂となって広がって味方が増える。ゴマをするのではなく、研究者なら成果で信頼を獲得したいところです。

そして新たな専門性を獲得したり発言力が高められれば、自分の専門性を生かしながら新たな課題に取り組むことができます。自分の元の専門に近づくようなテーマを発案するのも良いでしょう。自分の能力を高めつつも、周りの環境を自分の望む状態に持っていくのも博士に求められる力ではないでしょうか。

持続可能なキャリアデザインのためのアウトプット

社外向けのアウトプットを常に意識することは大変重要だと思います。社外からも見える業績を蓄積することで市場価値が高まり、キャリアデザインの自由度が増すと考えられます。いつでも転職できる、選択できる状態は本当に辞めることはなくとも精神衛生上とても大事です。

しかし企業研究者は企業が戦略的に隠すノウハウに触れる機会も多く、発表機会が限られることもありえます。目的が明確でなければ学術論文を積極的に出せないかもしれません。しかし、だからといって諦めたりせず、いつでも社外発表ができるレベルの成果を準備して置きましよう。部署のトップが変わって方針転換し、社外発表が推奨されるなんてことも経験しました。

結論

博士卒が企業研究者になって初めて感じるギャップは、学生時代の専門と割り当てられた研究テーマが異なることかもしれません。しかし、企業研究者として成功するためには、このギャップを埋めるための柔軟な対応と創造力が求められます。自分の専門性を生かしながら、新たなテーマに挑戦し、持続可能なキャリアを築いていくことが大切です。あなたは研究の組み立て方を知っているのですから、そのスキルを最大限に活用し、企業研究者としての道を切り拓いていきましょう。

研究も私生活も充実させたい欲張り博士。某国公立大学で博士(Ph.D.)を取得したのち、大手メーカーに就職。大学院では日本学術振興会特別研究員の使命を全うするため、筆頭著者と共著の論文を合わせて10本を発表し、学会受賞6件を獲得。学生時代からお金の大切さに思考を巡らせ、FPや簿記、税金の勉強に励む。株で真面目に資産運用中。

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